世界史

<英語で味わう>言葉の魔術師 シェイクスピアのソネット入門

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 イギリスでもっとも偉大な作家は誰でしょうか。人それぞれ趣味趣向は違えど、知名度や歴史に与えた影響度、そして現代における人気などを総合的に考えれば、答えはウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)に落ち着くでしょう。その証拠に2002年には、BBC製作の100 Greatest Britons(100人の偉大な英国人)というテレビ番組において、シェイクスピアは作家としては最高位の第5位を獲得しています。  

 シェイクスピアの作品として有名な、『ロミオとジュリエット』や『ハムレット』といった悲劇、『ヴェニスの商人』、『夏の夜の夢』といった喜劇にはさまざまな言葉の妙技が駆使されていますが、あまり注目されないのが彼のソネット。彼の全154編のソネットも負けず劣らず名文句の宝庫、隠れた名作なのです。リズムが味わえる英語の原文とともに、シェイクスピアのソネットの世界を散策しましょう。

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1. ソネットとは?

・ソネットの歴史
 ソネット、名前は聞いたことがあっても日本人にはあまり馴染みのある言葉ではありません。ソネットとは簡単に言えば、あるルールに則った詩のことを言います。日本でいえば、5-7-5-7-7を短歌といい、5-7-7-5-7-7を旋頭歌というようなもの。ソネットの場合、全14行からなり、加えて押韻に規則があります。

 ソネットは13世紀ごろイタリアで生まれ、(sonettoはイタリア語で小さい歌を意味します。)イタリアの詩人ペトラルカはソネット形式の作詩で有名でした。16世紀にはイギリスの英語詩にもソネット導入され、シェイクスピアもソネットの詩型を用いるようになりました。しかし、シェイクスピアのソネットは伝統的なソネットとは音韻や題材の点で異なり、とくに区別して「シェイクスピア風ソネット」Shakespearean sonnetとよばれることもあります。

・シェイクスピアの『ソネット集』
 シェイクスピアの『ソネット集』は1609年の出版。表紙下側(上画像参照)のT.Tは出版者のトマス・ソープで、 “Neuer before Imprinted”とは、“Never before Imprinted”(初出版、本邦初公開)を意味しています。『ソネット集』は全154編のソネットと『恋人の嘆き』(A Lovers Complaint)から構成され、そのうち154のソネットは内容によって大きく二部に分けることができます。

・第一部 “Fair Youth” とよばれる若い青年へ向けた1~126番のソネット。
・第二部 “The Dark Lady”とよばれる女性へ向けた127~154番のソネット。

 “The Dark Lady” とよばれる所以は、彼女が黒髪・色黒(brunette)であると作中に書かれているため。問題となるのが、第一部のソネットが向けられた “Fair Youth”。ソネットは、詩人の女性への恋を題材にするのが普通で、男性へ宛てたソネットは異例でした。また、『ソネット集』の献辞に書かれたW.H氏(下画像参照)の素性を明らかにする上で、“Fair Youth” がW.H氏と同一人物か否か、という問題が長らく論争の的となっています。このW.H氏問題には、イギリスの作家オスカー・ワイルド(1854-1900)も興味をもち、 “The Portrait of Mr W.H.”という小説を書いています。

2. ソネット18番 “Shall I compare thee to a summers day?”

 なにはともあれ、百聞は一見にしかず。シェイクスピアのソネットでも有名な第18番を見ていきましょう。(音声とあわせて音読することをおすすめします。邦訳は『対訳 シェイクスピア詩集』 柴田稔彦編 岩波文庫がおすすめ。)

Shall I compare thee to a summers day? -a
Thou art more lovely and more temperate. -b
Rough winds do shake the darling buds of May -a
And summers lease hath all too short a date. -b

Sometime too hot the eye of heaven shines -c
And often is his gold complexion dimmed; -d
And every fair from fair sometime declines -c
By chance or natures changing course untrimmed -d

But thy eternal summer shall not fade -e
Nor lose possession of that fair thou owst -f
Nor shall death brag thou wand rest in his shade -e
When in eternal lines to Time thou growst. -f

So long as men can breathe or eyes can see -g
So long lives this and this gives life to thee. -g

音声:https://librivox.org/sonnet-18-by-william-shakespeare-2/
(Librivoxはパブリックドメインの朗読を提供するサイト。総勢14人によるソネット第18番の朗読が楽しめます。)

・詩型
 まずは詩型から。先ほど述べたように全部で14行あります。そのうちさらに、音韻によって4+4+4+2にグルーピングされます。各行の右側につけたアルファベットは、脚韻グループを示しています。たとえば -a と示された第1行と第3行の最後の単語に注目すると、それぞれ “day” と “May” であり、韻を同じくしていることがわかります。他の行の脚韻を同じようにたどっていくと、全体として、 “a-b-a-b-c-d-c-d-e-f-e-f-g-g” という構造になっていることがわかると思います。この構造が「シェイクスピア風ソネット」の定型です。

・Iambic pentameter
 次に “iambic pentameter”(弱強五歩格)について。“Iambic” (アイアンビック)とは「弱強格」、つまり “da-DUM”というリズム。たとえば、 “To be or not to be”(『ハムレット』)の場合、“to BE or NOT to BE” といった塩梅。“Pentameter” の “penta-” は、5を意味し、一行に5つの “da-DUM” があらわれることを意味します。ソネット18番について見てみると、
shall I / com-PARE / thee TO / a SUM / -mer’s DAY?
thou ART / more LOVE- / ly AND / more TEM- / per-ATE
というように“iambic pentameter” になっていることがわかります。
この “iambic pentameter” はシェイクスピアお気に入りのリズムで、『ロミオとジュリエット』をはじめとする多くの作品に登場します。また、シェイクスピアに限らず、“da-DUM” のリズムは文学作品から日常会話まで幅広く見られます。それだけ “iambic” のリズムは英語に馴染むのです。余談ですが、英語圏の学生はテストで “iambic pentameter” を識別することを求められるそうです。

 参考までに、“Iambic pentameter” 以外のリズムを紹介しておきます。次の文はエドガー・アラン・ポー(1809-1849)の『大鴉』(The Raven)から。 Once upon a midnight dreary while I pondered weak and weary
Stress(強弱)を示せば、
ONCE u- / PON a / MID-night / DREAR-y / WHILE i / PON-dered / WEAK and / WEAR-y
となります。“Iambic” とちょうど反対に「強-弱」のリズムになっており、この韻のことを “trochee”(トロキー)と言います。また、「強-弱」8つで一つのグループを作っていることから、『大鴉』の冒頭の韻は、“trochaic octameter”(oct- = 8)となります。

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3. 言葉の魔術師 シェイクスピア

 こんにち普通に使われている英語のなかには、シェイクスピアのペンから生まれた言葉が少なくありません。たとえば「悲運の恋人」を意味する言葉として使われる “star-crossed lovers” は『ロミオとジュリエット』の冒頭に由来します。ソネット18番を筆頭に、ソネットも名句名言に事欠きません。対訳書を片手に、ときに朗読の助けを借りながら、豊饒なる言葉の森を散策しませんか。

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