実は奥深い「いろは歌」のあれこれを知ろう!

2016-09-16

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実は奥深い「いろは歌」のあれこれを知ろう!

 「いろはにほへとちりぬるを…」、日本人なら誰もが(意味もわからず)唱えたことがあることでしょう。だいたい、いわけなき小学生が「いろはにほへと」と聞いて「色は匂へど」という漢字を当てられるはずがありませんよね。それはさておき、いろは歌の意味を知っている方ならおわかりの通り、いろは歌は意外と奥が深い。なんといっても、いきなり「色は匂へど」なんていう「色即是空」めいた言葉から始まるのですから。

 日本のいろは歌に関することから、漢字や英語の「いろは歌」まで、知っているようで知らない、いろは歌の世界をご案内します。

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1.日本

・いろは歌

いろはにほへと ちりぬるを
わかよたれそ つねならむ
うゐのおくやま けふこえて
あさきゆめみし えひもせす

色はにほへど 散りぬるを
我が世たれぞ 常ならむ
有為の奥山  今日越えて
浅き夢見じ  酔ひもせず

 七五調の今様形式で、全47文字からなるお馴染みのいろは歌。その馴染みやすいリズムとは裏腹に意味はかなり難解。成立の過程、作者についても詳しいことはわかっておらず、文脈が不明なことも、いろは歌が難解を極める理由の一つになっています。普通、「美しい花も散ってしまう。世の中は無常だ。だから現世を超えて、つまらない夢もみまい、酔いもしまい。」といった、無常観を歌ったものとして、いろは歌は解釈されています。「有為の奥山」とは、絶え間なく色々なこと(有為)がおこること現世を表しています。「有為」とは仏教語ですが、私たちには「有為転変」という四字熟語を通じて馴染みのある言葉になっていると思います。

 作者は空海だと言われていることが多く、学校でも空海の作だと教わった方もいると思いますが、確定的ではありません。「いろは歌」が彼の時代にはなかった今様であることなどが、空海説への反論の根拠です。なんにせよ、資料と文脈に乏しい「いろは歌」ですから、作者を特定するのは難しいのです。一方で、アマチュアにとっては、自由に想像を巡らせることのできる格好の題材かもしれません。ちなみに、筆者は次のように、勝手に想像しています。

「あまり有名ではない人が、遊んでいるうちに完成した「いろは歌」が仲間うちで評判になり、やがて世の中に広がった。そして、いつしか作者がわからなくなった。そこで仕方ないので「いろは歌」の仏教的な雰囲気から、有名人空海の名前を作者に擬した。」

 昨今Twitter等のネット世界でよく見る、「無名の人によるつぶやき・書き込みがいつの間にか有名になり、ソース(作者)がわからなくなる」という現象(コピペ化)と「いろは歌」の成立は、似ているのではないか、なんて思ったりもします。

 想像は自由。皆さんも「いろは歌」の作者は誰だったのか、想像してみてはいかがでしょうか。

・鳥啼歌

とりなくこえす ゆめさませ
みよあけわたる ひんかしを
そらいろはえて おきつへに
ほふねむれいぬ もやのうち

鳥啼く声す 夢覚ませ
見よ明け渡る 東を
空色映えて 沖つ辺に
帆船群れゐぬ 靄の中

 「いろはにほへと」を「古いろは歌」とすれば、「新いろは歌」にあたる歌が「鳥啼歌(とりなくうた)」です。この48字からなるいろは歌は、新聞『萬朝報』(よろずちょうほう)が明治36年に開催した企画によって生まれました。応募された「新いろは歌」のなかから一等に選ばれたのが「鳥啼歌」でした。朝の訪れを告げる鳥の鳴き声、朝ぼらけの海の美しさ、眠りから覚めて活動をはじめる人々、そうした早朝の風景を見事に表現しています。

2.中国

 中国には膨大な漢字があるため、すべての漢字を使った文章というのは存在していません。しかし、いろは歌に似た試みがなかったわけではありません。その試みの一つが『千字文』とよばれる漢詩です。

 『千字文』は、4字1句、全250句1000文字からなる漢詩です。1000文字すべて異なる漢字が使われているのが大きな特徴です。のみならず、「天地玄黄 宇宙洪荒」と韻を踏んでいるように韻文となっているのがすごいところ。

 『千字文』の成立に関して、逸話が残っています。6世紀前半、梁の武帝の時代のこと。武帝は漢字の手習い用教材として、中国4世紀の能筆家、王羲之の書から1000文字を選定します。しかし、教材としてつまらなかったため、周興嗣という人物に命じて、1000文字を使って韻文を作ることを命じます。命を受けた周興嗣は、彫心鏤骨、一夜にして詩句を練り上げます。翌日、完成した『千字文』を武帝に進呈した周興嗣の髪は真っ白になっていたと言います。

 『千字文』は、漢字のガイドブックとして中国で長く親しまれました。とくに、書の手本として『千字文』は重宝され、中国歴代の書家が『千字文』を題材にした作品を残しています。上掲の画像は草書体によるものですが、楷書体をはじめ、篆書、隷書などさまざまな書体での『千字文』が残されています。 

 日本へは、『論語』とともに百済の渡来人王仁(わに)によって伝えられたとの『古事記』の記述があります。ただし、時代が合わないことから『古事記』の記述の信憑性は疑われています。しかし、日本でも古くから『千字文』が使われていたことは、8世紀の『東大寺献物帳』にその名が見えることからも明らかです。日本人書家も『千字文』を手がけ、将棋の駒の書体で有名な巻菱湖の作品などがあります。現代でも書道の教材として『千字文』はポピュラーな存在。『千字文』本文は小川環樹、木田章義両氏の注釈のついた岩波文庫版が手に入りやすいと思われます。また、Wikisourceに現代語訳つきの『千字文』本文があります。

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3.英語

 英語にもいろは歌に相当する言葉遊びが存在します。26のアルファベットをすべて使って一つの文を作ることは、英語でパングラムpangramといいます。「すべて」「汎」という意味のギリシャ由来のpanに、同じくギリシャ由来で「文字」という意味を表すgrammaが組み合わさって出来たpangramは、字義的には「すべての文字」という意味を持っています。

パングラムは単におもしろいだけではなく、ちょっとした実用的な面を持ちます。パングラムには26文字すべてのアルファベットが使われることから、フォントのサンプルとして便利なのです。「a、b、c、d、e・・・と並べればいいじゃないか」とおっしゃるそこのあなた、まったくその通りですが、パングラムの方がおしゃれだとは思いませんか。

 具体例を出しましょう。英語でもっとも有名なパングラムはおそらくこれ。

“The quick brown fox jumps over the lazy dog”
(すばしっこい茶色の狐がのろまな犬を飛び越える)

重複があるものの、26文字、ちゃんと使われています。タイプライターやキーボードのテストのほか、タイピング練習用の例文としてもよく使われています。
ちなみに、ワシントンとモスクワをつなぐホットラインのテストメッセージは、
“THE QUICK BROWN FOX JUMPED OVER THE LAZY DOGS BACK 1234567890”
だったそうです。
なぜこのフレーズが選ばれたのかを知らないと、アメリカとソ連のどっちが “The quick fox” で、どっちが “The lazy dog” なのか、変な政治的メッセージを読み込んでしまいそうです。

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