日本画

葛飾北斎「東海道五十三次」誕生のきっかけとなった物語とは? 北斎をもった楽しむために

2016-12-27

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葛飾北斎82歳自画像

「東海道五十三次」は、物語や絵でも多くの作家により書かれてきた題材です。そのひとりに葛飾北斎もいました。北斎の絵と言うと浮世絵などが有名ですが、北斎の手がけた「東海道五十三」もまた味わい深い絵が多くあります。北斎の魅せる「東海道五十三次」とともに「流行」となった東海道についてもご紹介していきます。

「東海道」がブームになった理由

江戸時代、上方と江戸を結ぶ文化交流や、政治や経済に主要な役割を果たしたのが東海道五十三駅です。街道や駅の整備が進み、東海道の地図が盛んに作られていくようになりました。地図だけではなく、街道の景色や宿駅などの様子を絵にしたものも多く出始め、屏風、巻紙形式のような東海道絵地図が出だし、それを見た人が東海道への旅へのあこがれを抱くようになっていきます。
「東海道名所記」(全6巻)浅井了意作

寛文年間(1661年~73年)に刊行された浅井了意の「東海道名所記」では、楽阿弥という僧侶と若者が江戸へ下り、名所を見物しながら京へ上るという話が大ヒットとなり、世間の東海道への興味がますます強くなっていきました。
「東海道分間絵図」著 遠近道印 絵 菱川師宣

これに貢献したのが江戸の浮世絵師 菱川師宣です。「東海道分間絵図」では、地図と名所を詳しく記しながら絵画的な要素も含まれた書物として刊行されました。この時代、東海道を詳しく知りたいという人々の関心に応えた初めての本が、この「東海道分間絵図」と言われています。
「東海道名所図会」著 秋里籬島 絵 北尾雅美他

1800年前後になると東海道は一般庶民の旅の場所として定着していきました。その頃、 秋里籬島の「東海道名所図会」は、東海道を京都から江戸へ下る間の名所や旧跡などを北尾雅美などの浮世絵師の挿絵とともに詳しく紹介した本が刊行されます。
「東海道中膝栗毛」(18冊)著 十返舎一九

さらに、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」が同じ頃刊行されます。「東海道中膝栗毛」は、弥次郎兵衛と喜多八の旅の道中での出来事を面白おかしく書かれた本で、大ヒットとなりました。その後20年にわたり続編も刊行されていることでも「東海道中膝栗毛」が後世にわたりヒットし続けている証だといえます。

葛飾北斎の描く東海道は人物中心

『春興五十三駄之内』「桑名」

同じように十返舎一九の「東海道中膝栗毛」に大きな影響を受けた人物が葛飾北斎です。北斎の描く東海道は、風景描写が主体になるのではなく人物描写が主体に描かれています。「東海道中膝栗毛」の物語の展開を思わせるような旅の出来事、各宿駅、旅人などが主体で描かれています。

北斎により描かれた東海道の揃物は、全部で7種類が現在確認の取れているもののようです。

1『横小判東海道(全56枚)』‥版元(出版元)・吉野家徳次郎版
2『春興五十三駄之内(全59枚)』‥版元・不明
3『横小判東海道(全54枚)』‥版元・不明
4『東海道彩色綴五百三次(全56枚)』‥版元・鶴屋金助版
5『横小判東海道(全60枚)』‥版元・鶴屋金助版
6『横小判東海道(全56枚)』‥版元・伊勢谷利兵衛版
7『縦中判東海道(全56枚)』‥版元・伊勢谷利兵衛版
『春興五十三駄之内』「鳳来寺背景」

『春興五十三駄之内(全59枚)』「桑名」でも見られるように絵の中に狂歌が添えられています。他の東海道と違う点は、「鳳来寺背景」「秋葉山之春厘」にある鳳来寺や秋葉山が東海道から外れた場所にあるにも関わらず描かれていることです。また、最終である「京」の絵図がいまだに一点も発見されていないそうです。
『春興五十三駄之内』「程ケ谷」
『春興五十三駄之内』「石薬師」

いつ刊行されたのかが分かるように「程ケ谷」では、馬の鞍に「子」の文字、「石薬師」では、御手洗に「享和甲子春」の文字があります。これは、いずれも享和4年正月に刊行されたものと分かるようにしているのだそうです。
『北斎翁道之志遠里』「品川」

享和4年正月の出版以降に『春興五十三駄之内』は、全部の狂歌が削除され『北斎翁道之志遠里』として再出版されました。例えば、「品川」には「品川や背なハ荒小田妹ハ海苔打かへしたる春のすきそめ」という狂歌が左上に書かれていたのですが、きれいに消された形に変わっています。
『北斎翁道之志遠里』「原」柳川重信作
『北斎翁道之志遠里』「鳴海」柳川重信作

狂歌だけではなく絵図ごと削除されたのも数図あり、そのかわりに追加された図もありました。しかし、追加図は北斎が手掛けたのではなく北斎の弟子の柳川重信が手がけました。柳川重信が追加図で手がけたのは、8図で「原」「鳴海」もその中のものです。
『絵本駅路鈴』「沼津」
『絵本駅路鈴』「四日市」

北斎の東海道五十三次の揃物の中で最も大きいサイズ(中判サイズ)が『絵本駅路鈴』です。 現在では茶色裂地の折帖(おりちょう)装に仕立て直され東京富士美術館に完全な揃いで残されています。北斎の東海道五十三次を楽しんでみるのはいかがでしょう。

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