西洋画

オルディ・ルドンの残した代表作たち

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幼少期に味わった孤独を芸術という手段で昇華させた、孤高の幻想画家がオディロン・ルドンです。1840年にボルドーで生まれたルドンは、ミレー、コロー、ドラクロワなどに感銘を受け、画家を目指すようになりました。

その後、父の希望であった建築家を受験しながらも失敗し、本格的に画家としての意思を固め、画家としての人生を歩み始めます。印象派で有名であった画家たちと同時期に生きたルドンですが、印象派に留まらず、幻想を自らの芸術的才能で作品としていきます。

白黒の版画を利用するなど、さまざまなアプローチを行いますが、結婚と子どもを授かるなどの家庭環境の変化でパステル画も多く残すようになります。モノトーンの暗く強い作品から、あたたかみのある作品まで、数多くの作品を残したルドン。今回、ここではルドンが残した代表作についてをいくつか紹介していきます。

ヴィオレット・ハイマンの肖像

幻想的な一見、不気味とも思えるようなモチーフをメインに描いた作品の多いルドンですが、ヴィオレット・ハイマンの肖像は、色彩を多用した、暖かみのある女性とフラワーモチーフが描かれた作品となっています。

ルドンは、晩年になっていくほどにパステルを使用した作品を増やしており、これもそのひとつです。この作品は、肖像画とはいえ、どこかぼやけている印象があり、ルドンらしい幻想的な印象はしっかりと残されています。

そして、どこか女性の目線もうつろであり、思い悩んでいるような、何かを諦めてしまっているような、そういった表情にも見えます。美しく、鮮やかな花が周囲を囲んでいますが、どこか色彩は紫や青を多用したことで、毒々しさも感じさせます。

美しさのなかに、どこかエッジを利かせた作品としてヴィオレット・ハイマンの肖像を描く、まさにルドンらしい作品のひとつとなっているのではないでしょうか。

眼をとじて

ルドンの作品でも多くの方が目にしたことがあるだろう作品が、眼をとじてです。現在、ゴッホ屋美術館に所蔵されている作品ですが、はかなげな女性が非常に巨大な印象を与える、これもまた幻想的で不思議な作品となっています。

象徴主義の画家の作品らしいものであり、写実主義というよりは、宗教的な印象を放っている作品として注目されています。ラファエル前派の影響を受けていたと思われている作品であり、深みのあるベージュカラーで全体像が捉えられています。

どこか、砂っぽい、乾いた印象をも与えるような、まさに独創的な世界観をルドンはこの作品で完成させています。

眼=気球

眼=気球は、ルドンルドンたらしめる、幻想世界を描いた作品となっています。モノトーンで描かれた作品のなかのひとつであり、中央に目玉を気球としてモチーフとした少々不気味な雰囲気の作品となっています。

幼少期、母に捨てられ田舎町で過ごしていたことが、ルドンにとって孤独と妄想の日々といわれています。そして、これら不気味なモチーフは、ルドンが幼少期の寂しさから逃げるために描いていたのではなく、あの頃に実際に自分の眼に映っていたものを、ただ書きなぐっているだけであると言っています。

こういった暗く、辛さを与えるような作品には、彼が幼少期に自然に見えていたものが描かれている、いわば記憶のスケッチ画と捉えて鑑賞するのも良いでしょう。

キュクロプス

モノトーンの作風と、色彩が爆発したように描かれた作風と、両極端な作品を生み出していたルドン。そんなルドンの不気味さと明るさ、希望といったさまざまな感情が入り乱れているような、そんな作品となっているのが、キュクロプスです。

キュクロプスは、ギリシア神話にあらわれる単眼の巨人のことですが、それが色彩豊かな山の向こうからこちらを覗いているという、やや恐怖を感じさせる構図となっています。しかし、ルドンの描くキュクロプスは、よく見ると軽く微笑んでいるようにも感じ、優しさを感じさせるのがポイントとなっています。

また、山の中腹には裸体の女性が寝そべっており、非常に寛いでいます。キュクロプスとの関係性は不明ですが、相容れないようで、何か共通点があるのではないかと、鑑賞する側が深く楽しめるような作品となっています。

油絵で描かれているのですが、どこかパステルのような暖かみがあり、色彩豊かな風景はルドンの心のなかにあり、平穏な日々を取り戻したというメッセージにも感じることができるのです。

ルドン夫人の肖像

眼=気球など、暗く、不気味なモチーフは幼少期の孤独が生み出した、幻想の世界といって良いでしょう。

しかし、そういった辛く、彩りの無い人生を一変させた人物が、ルドン夫人です。ルドンは、カミーユファルトいう女性と40歳の頃に結婚をしていますが、これが彼の生活と精神状態を大きく変化させたことは、あまりにも有名です。その頃、ルドン夫人の肖像が描かれているのですが、この頃はまだ、ルドンは黒をモチーフとした作品を多く描いていた時期でした。それにも関わらず、ルドン夫人の肖像については、色彩を使用した暖かみのある仕上がりとなっています。

カミーユの前では、ルドンは辛い過去を露呈して、その記憶で塗りつぶすことをせず、ただただ愛情と優しさを込めて描かれたことがこの作品を見ると伝わってくるのです。

画家の息子アリの肖像

ルドンが、カミーユと同時に偏愛し、自分の生涯をかけて守り抜こうと誓ったのが、息子のアリです。

その息子を描いた作品が、画家の息子アリの肖像ですが、こちらも色彩が使われています。息子については、顔だけが写実的に描かれており、背景や服の部分は淡く幻想的な色彩で幻想的な印象をプラスしています。

自分の大切なものだけは、しっかりとくっきりと描き、その周囲に優しさや曖昧さをメッセージとして書き加えた、独創的な作品となっています。

勝利のペーガソス

ルドンは、たびたび神話に登場する動物を描いていますが、勝利のペーガソスもそのうちのひとつとして人気のある作品です。

天馬ペーガソスが、ヒドラという七つの頭を持った怪物と戦っている姿を描写している作品ですが、赤く、濃く血なまぐさい色使いをして、この勝負の激しさを伝えています。勝利を収めているペガーソスの姿はあまりにも逞しく、どこかルドンの憧れを投影しているように思えてなりません。

しかし、今までは暗く辛い描写が多かったルドンが、躍動感と希望に溢れたこういった作品を描けていたことは、やはり生活環境の大きな変化があったからこそと思われるのではないでしょうか。

沈黙

ルドンは、決して社交的でおしゃべりといった性格の人物ではなく、どこか寡黙で自分を外に出さないような人物だったといわれています。その性格をストレートに現しているのが、沈黙という作品です。

鏡のような形状の円に入り込んだ人物は、二本の指で口元を押さえています。うつろな目をしながらも、何かもの言いたげな表情であり、ルドン自身を投影しているような印象を与えます。しかしながら、周囲は曇っているというよりは、清潔で透明感があり、心の潔白性だけは感じさせる作品となっています。

人生を描く画家

自分の眼に今、映っていたものを描写するだけでなく、その時々の自分の人生における状況を投影した作品を多く残したルドン
一見、不気味なモチーフと思われながらも、じっくりと鑑賞すると、彼の優しさや孤独、そして人を愛したいという欲求など、さまざまな感情が伝わって行きます。ぜひ、機会があれば一度はルドンを鑑賞することをおすすめします。

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