日本史 平家物語〜800年前のバトル物ストーリーが未だ人気なのはなぜ?

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平家物語って平たく言うとどんな話?

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。」
国語や日本史の授業で一度は学んだことのある有名なフレーズ、思わず一緒に声に出して読んでしまった方もおられるのではないでしょうか。
音読ブームを巻き起こした『声に出して読みたい日本語』(齋藤孝・著)にも選ばれたこの一節は、今から800年ほど前に書かれた『平家物語』の始まりの文です。

いつまでも続くと思っていた栄耀栄華が、あっけなくほろほろと崩れ落ち、新時代の風の向こうに消えてしまうこと、あるいはこのまま変わらず同じであるはずの関係が一瞬で滅びることは、時代の移り変わりのスピードが日々加速するいっぽうの現代日本では、日常的なニュースとなっています。

平家物語』は、声に出すほど心地よい日本語の美しさを味わいながら、その小気味好い調べに乗せて躍動する鎌倉武士の戦いと、生き様に対する美意識に想いを馳せる、「軍記物語」の代表作です。

滅びゆくのは、日本古来の公家流を受け継ぐ貴族的優美さと叩き上げの武家の実力を兼ね備えた華麗なる一族・平家一門であり、そんな彼らを新時代の風となって崩壊させていくのが無骨な関東武者・源氏一門という、赤と白の明確な立場と権力争いの対比がありながら、その源平の高い垣根を越えて、親の仇である平家に命の恩人がいたり、同族同士の権力争いがあったり、敵陣から響く笛の美しさに心を奪われたりなど、「栄耀栄華だけではない、人の儚い情感」を深く掘り下げるテーマ性を持つこともまた、800年に及ぶ時代を経てもなお衰えない魅力の根源と言えるのではないでしょうか。

人気が高まるにつれ、多くの人の手で書き写された『平家物語』は、彼らが生きた時代によって文章がアレンジされたり編集が入ったりするものを含めると、約120種類あるとされています。

その中で別格となっているのが「覚一本」と呼ばれる、足利尊氏の親戚・明石覚一の手による『平家物語』全13巻です。

平家一門の栄耀栄華が平清盛のエピソードを中心に描かれ、源頼朝の反乱の狼煙が上がるまでの第1部と、時代の逆風を感じつつ清盛が世を去り、残された平家一門が源氏の木曽義仲に都を追われるまでの第2部、そして源義経の連戦連勝で壇ノ浦まで追い詰められた平家が滅亡するクライマックスが第3部で、エピローグ『灌頂の巻』にて後白河法皇や建礼門院などの生き残った人々のエンディングが描かれることで、「覚一本」は終幕します。

大海の水を頭から注ぎ、菩薩が仏となる儀式の名が最終巻につけられたこともまた、壇ノ浦の波間に沈んだ平家一門の最期に寄せる当時の人々の想いを感じずにはいられません。

平家物語で描かれた保元の乱、平治の乱おさらい

「軍記物語」である『平家物語』は、平安時代末期に鳥羽上皇亡き後の権力争いから幕を開けます。鳥羽上皇の二人の息子である崇徳上皇と後白河天皇の争いは、1156年に平清盛と源義朝という当代随一の軍事力を投入することで決着しました。保元の乱と呼ばれるこの戦いにより、それまでは「公家の非常勤ガードマン」的な扱いに過ぎなかった武家の実力が朝廷にとどろき、「武威」の恐ろしさを肌で感じた公家により、平家と源氏は一目置かれる存在となりました。

その3年後、二条天皇に位を譲った後白河上皇の近習たちによる派閥争いが激化し、平治の乱が起こります。この時にはすでに、緊急時に使うべきは武家の爆発力と公家たちに知れ渡っていたため、平家と源氏は各派閥に分かれて招集され、正面から激突することになるのですが、平清盛の活躍で源氏は敗北し、罪人として裁かれることになりました。

それとは逆に平清盛率いる平家一門は、朝廷の恩人の一人として出世階段を駆け上がり、武家で初めての太政大臣という人臣極める要職についたのです。

千人以上の登場人物が織りなす『平家物語』の読み応えは、平家、源氏、皇族、貴族が入り混じって、人生の浮き沈みを次々に演じるところにあります。

約70年間に及ぶ源平合戦を「諸行無常の響きあり」と奏でたのは、盲目のアーティスト・琵琶法師でした。

声に出して読みたい平家物語。琵琶法師とどんな関係?

誰もが知る鎌倉時代末期の随筆『徒然草』にて、兼好法師は「信濃前司行長がまとめ上げたものを、盲目の僧・生仏が物語った」という記述しました。そのため原作者は「信濃前司行長」とされているのですが、諸説あります。

しかし、琵琶法師が語ることこそ『平家物語』のセオリーであったことは間違いなく、現代の私たちは主に活字で読んでいるのですが、『平家物語』を本来の姿で味わうには、琵琶の音色とともに琵琶法師が語らうのを耳で聴く、動的なライブ感ある形が望ましいようです。

音曲の魔法にかかった『平家物語』は、弦が揺さぶる空気が肌を打ち、見事な語りと謡で言葉を音にする躍動感がたまりません。ぜひ機会があれば演奏会に足を運んでみてはいかがでしょう?

疲れた心に沁みる『平家物語』

毎日の生活に、つかの間の癒しや潤いを求める声が根強い現代日本では、加速する便利さに人間が逆に追い立てられているように思える時もあるのではないでしょうか。

乾きに苦しむ心に潤いを与える方法としておすすめなのは、人間の情感を呼び起こす名作をゆっくり読みふける時間を作ることです。

数多の日本人の心を震わせて800年、古典文学の奥深さを、今宵ぜひ味わってみてください。

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