龍泉寺は世界遺産にも登録された修験道の寺院

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奈良県にある龍泉寺は、修験道の霊場として開かれた寺院です。伝承によると修験道の開祖・役行者によって開かれたと言われています。世界遺産にも登録された龍泉寺には、厳しい自然と向き合う修験道に、触れることのできる寺院です。

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修験道の霊場として栄えた龍泉寺

龍泉寺があるのは、奈良県吉野郡天川村の山中。最寄り駅の近鉄「下市口」駅から、さらに奈良交通バス「洞川温泉行」に1時間20分乗った終点にあります。「下市口」駅までは「大阪阿部野橋」駅から、近鉄特急に乗って1時間。霊場の名にふさわしい奥地にある寺院です。

真言宗醍醐派の大本山で、山号は大峯山。伝承では700年頃に、役行者によって開かれたと言われています。それから200年後に聖宝理源大師によって再興され、現在まで修験道の霊場として栄えてきました。現在の本堂は、1946年(昭和21)に大火によって失われたものを、1960年(昭和35)に再建されたものです。

役行者が開いた修験道の霊場

大峰山を開山し山中で修行をしていた役行者は、山麓の洞川へ下った際に岩場から湧き出る泉を発見しました。この泉のほとりに「八大竜王尊」を祀ったのが、龍泉寺の元となったと伝えられています。八大竜王尊は法華経に登場する、仏法を守る8体の龍神たちのこと。法華経が説かれた時に、聴衆として参加したと伝えられる神様で、雨や水に関係する神様です。泉を守る龍神のいる寺ということから、龍泉寺と称するようになりました。

役行者が龍泉寺の元となる泉「龍の口」を発見してから200年ほど経った頃、上流へ1キロメートルほど上がった岩場に、雌雄の大蛇が住み着き人々を襲うようになり、寺は衰退してしまいました。そこへ聖宝理源大師が訪れ、真言の威力で大蛇を退治し、寺を復興させたと伝えられています。

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修験道の開祖「役小角」

龍泉寺を開いた役行者は、役小角とも呼ばれる修験道の開祖。伝承が多く生没年などは不詳ですが、実在したことは間違い無いようです。賀茂一族の出身で7世紀末に現在の奈良県御所市にあたる、大和国葛上郡茅原村に生まれたと言われています。16歳で葛城山に入り山岳修行をしながら、葛城鴨神社に奉仕しました。陰陽道の神仙術と密教を、日本独特の山岳信仰に取り入れ、独自の修験道を開きました。吉野金峰山や大峰山を始め、多くの山を開いて修験道を広めていきましたが、保守的な神道派から疎まれ、伊豆へ流罪になってしまいます。

修験道を修める人々から崇敬される役小角には、数多くの伝説が残されています。鬼神を孔雀王の呪法で使役したり、五色の雲に乗って大空を駆け巡ったりと、まるで神仙のような人物像が描かれることが多いようです。伊豆に流された理由についても、「弟子に妬まれ妖術で人々を惑わしていると密告された」や「使役されていた葛城山の一言主神が耐えかねて、役小角が天皇を滅ぼそうとしていると密告された」など、幾つかの説があります。実際には、彼の活躍と修験道を疎んだ保守系の神道派によって、呪術や妖術を使うという噂を逆手にとられ、母を人質に取られたため自ら囚われの身になったという説が、役行者流罪の真相に近いのではないでしょうか。

修験道の中興の祖「聖宝理源大師」

役小角が大峰山を開山してから、約200年経った龍泉寺は、聖宝理源大師によって再興されました。聖宝理源大師は役小角が興した修験道を、より発展させた中興の祖といわれる人物です。修験道の中心人物が二人も関わったことを見ると、この一帯が霊場として重要な位置を占めていたことがわかります。

聖宝理源大師は真言宗の僧侶で、平安前期に活躍した人物です。天智天皇の孫の光仁天皇の子孫にあたると伝えられています。東大寺に入門して三輪・法相・華厳を学び、興福寺維摩会の講師を務めた後、真言宗を学び修験道を確立したという、勤勉さが伝わる経歴です。また、東大寺盗難院を開き顕密二教を教化したことでも知られ、貞観寺座主・・東大寺別当・東寺僧正・東寺長者などを務めた、優秀な人物でもありました。

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世界文化遺産に登録された大峰山

龍泉寺のある大峰山は、「紀伊山地の霊場と修験道」の一部として、世界文化遺産に登録されています。修験道の盛んだった、和歌山県・奈良県・三重県にまたがる3つの霊場がある、吉野山と大峰山・熊野三山・高野山が登録された「紀伊山地の霊場と修験道」は、日本で登録された世界文化遺産としては最大の規模。約1万1865ヘクタールにも及ぶ広大な面積です。

それぞれの山にある熊野詣道・大峯奥駆道・高野山石道の3つの参詣道も登録されており、「道」が登録された日本初の世界文化遺産。文化的景観として登録されたのも、日本初になります。大峯奥駆道は熊野から吉野を詣でるために開かれた参詣道。熊野の本宮から吉野へ向かうルートを順峯(じゅんぷ)、逆ルートを逆峯(ぎゃくふ)と呼んでいます。どちらも全部で75箇所の「靡(なびき)」と呼ばれる修行場をめぐって、それぞれの終着地へと山道を進む修験道の修行のひとつです。

奈良県指定天然記念物の龍泉寺自然林

龍泉寺の裏山にある自然林は、奈良県の天然記念物に指定されている原生林です。中間温帯林と呼ばれる森林で、太平洋側のみに見られる極相林。上部の夏緑樹林と下部の照葉樹林に挟まれており、特に生物学の分野において、学術的にも極めて重要な森林と注目されています。モミを中心にツガ・スギ・イタヤカエデ・トチノキ・イヌブナなどが生えており、初心者でも歩きやすい洞川自然研究路が設けられているので、トレッキングも楽しめる隠れたスポットです。

龍泉寺は修験道の霊場として開かれた経緯から、周囲には今でも自然が豊富に残っています。龍泉寺を中心に霊場として、長い年月途絶えることなく丁寧に整備されてきた結果と言えるでしょう。そのおかげで貴重な天然林も残っているのです。厳しい自然と向き合い、一体になる修験道。龍泉寺はその片鱗を味わうことのできる寺院です。

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