西洋画

ダリが残した、精神世界を映し出した作品たち

2018-02-09

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サルバドール・ダリといえば、20世紀を代表するシュールレアリスムの巨匠です。「記憶の固執」という、時空がゆがめられたような独創的な構図の作品が特に有名であり、ダリをダリたらしめている作品の代表作としても知られています。今回、ここではダリという人物に注目をして、彼の描き続けてきたさまざまな作品を紹介していこうと思います。

記憶の固執 / The Persistence of Memory

ダリの有名な作品といえば、冒頭でもご紹介した通り、「記憶の固執 / The Persistence of Memory」という作品です。キャンバスの中の時空が歪んでしまったかのような、独創性に溢れた作品で、彼の代表作のひとつともいわれています。

「記憶の固執 / The Persistence of Memory」は、1931年に描かれた油彩作品で、現在ではニューヨーク近代美術館に所蔵されています。本来、硬質である時計を歪ませているという発想は、妻であるガラが溶けていたカマンベールを見て着想したといわれています。

これがきっかけとなり、作成に入っており、ほかにダリの心を揺さぶるようなものはなかったようです。彼の作品の多くは、非常に硬質なものがあったり、柔らかく緩やかなものがあったりと、この両極端をアートに昇華させたものが多く存在します。彼の持っている、無意識の中の何かが対比反応を起こすことによって、こういった作品が生まれていったのではないか、ということが言われています。

かたつむりと天使 Snail and the Angel

ダリは、絵画作品を数多く残していますが、彫刻に関しても多数の作品を残していることで知られています。そのうちの代表作が、「かたつむりと天使 Snail and the Angel」です。

フロイトという精神世界の巨匠と懇意にしていたダリは、彼の家を訪れた時に自転車の外の自転車に張り付いていたカタツムリを発見し、それに着想を得てこの作品を描いた、と言われています。一見、普通のカタツムリと小人の対比がユニークな作品に見えますが、このカタツムリの渦巻き部分は人間の頭部を意味していると言われています。

さらに、精神外科であったフロイトは夢診断で有名な心理学の基礎をつくった人物であることからも、この渦巻き部分はフロイトを表現しているもの、だともいわれています。

そして、このカタツムリの上側に張り付いている天使は、永遠自由を象徴するモチーフだと言われており、ダリの求めている自由への開放が色濃く現れている、作品なのではないでしょうか。また、非常に硬質な貝殻となめらかかつ、ぬめった体が特徴のカタツムリの対比表現もここで示されています。

ナルシスの変貌 / Metamorphosis of Narcissus

人間の指を岩に見立てたり、卵から何か花をモチーフとした絵画を描くなど、ダリらしい非常に独創性が高い作品のひとつが、この「ナルシスの変貌 / Metamorphosis of Narcissus」という作品です。

非常に強烈なメッセージ性を放つ作品でありながらも、落ち着いた色調のトーンと絶妙な陰影に支えられた、芸術性の高い作品です。偏執狂的批判的方法(ダブル・イメージ)という、ダリが考案した独特な技法が用いられており、指に支えられている卵がこの偏執狂的批判的方法(ダブル・イメージ)で描かれていると言われています。

作品のベースには、ローマの詩人オウディウスが描いた『転身物語』という作品となっており、さまざまなものに変化をしていくという、ナルシストという言葉のルーツと呼ばれているものです。卵が破裂してしまっていることで、何かの終焉を予期させるような作品でもあるのですが、ここから新しい自分、そして妻であるガラが生まれる、というメッセージ性が込められた作品となっています。

ダリは、ナルシストであることは良く知られていましたが、ガラと出会ったことでガラもナルシスに変身し、二人がナルシスを通じて繋がり合った、というような意味合いを込めた作品となっていると言われています。

象 / The Elephants

ダリが1948年に制作した作品のひとつ「象 / The Elephants」。何も無い広々とした砂漠の両脇に象が描かれているシンプルな作品ですが、その象は繊細な骨格を持った細い脚をしており、創られた石像のようなモチーフとなっています。

これは、宇宙象というダリが生み出した空想世界の象であり、ほかの作品でもいくつかに登場していることで知られています。

象は、昔の神話世界においても、権力などのイメージを想起させる生き物として扱われてきたのですが、それを細く繊細な脚で表現することで、強さと弱さという、権力に隠れている脆弱性を繊細に現していると考えられます。象が背中に背負っているモチーフは、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニの彫刻である、「ミネルバ・オベリスク」という作品を引用した、エジプトの記念碑とされています。

このように、ひ弱である足元であるにも関わらず、やはり、どこか権力的な強さも対比させるといった、ダリらしいユニークな作品に仕上がっているのではないでしょうか。

目覚めの一瞬前に柘榴の周りを蜜蜂が飛びまわったことによって引き起こされた夢 /Dream Caused by the Flight of a Bee Around a Pomegranate a Second Before Awakening

ダリ史上、最も長いタイトルであろう、「目覚めの一瞬前に柘榴の周りを蜜蜂が飛びまわったことによって引き起こされた夢Dream Caused by the Flight of a Bee Around a Pomegranate a Second Before Awakening」。

こちらも、カタツムリの作品同様に、フロイトが関係しています。フロイトは、精神分析を行ったことでも知られていますが、その夢解釈をベースに描かれた作品である、と言われています。中央で裸体で眠っている美しい女性は、ダリが生涯愛し続けた、妻ガラであり、そのガラがザクロの周囲をハエが待っていることを創作のインスピレーションとしています。

ダリの作品の特徴としては、妻であるガラを聖母として扱う作品が大変多いことです。この作品に関しても、ガラを聖母と見立てており、ハート形になったザクロはガラへの愛をアピールしている、ということで言われています。

イエローアイ・ロックフィッシュという魚やトラ、拳銃、そして宇宙象が描かれていますが、さまざまなモチーフを淀みなく、美しく表現し続けることができているガラらしい、非常に芸術性の高い作品となっているのではないでしょうか。

聖アントワーヌの誘惑 / The Temptation of St. Anthony

ダリの作品の中で、禁欲を非常に強く訴えかけている作品と言われているのが、「聖アントワーヌの誘惑 / The Temptation of St. Anthony 」という作品です。

お馴染みの宇宙象だけではなく、ペガサスやさまざまなモチーフにあのか細い脚を描いており、それを左下に佇む男が十字架をかかげて、禁欲に打ち勝とうとしている構図となっています。欲望と禁欲の葛藤、さらには関心と不安が交差したとされる作品となっているのが特徴的です。

この男性は、聖アントワーヌという人物であり、古典に洗われる有名な人物です。荒野を歩き続け、さまざまな誘惑に打ち勝つという物語なのですが、その一説がここで描かれていると考えられます。

宇宙象たちがアントワーヌに迫り来る中で、それらの背中には誘惑をイメージさせるモチーフが多く乗せられており、エル・エスコリアル修道院など、ダリが精神的なものとしての敬愛も表現されているようです。

ダリが残した数々の精神的作品

ダリが残した作品の多くは、彼の精神的な部分を投影しているような、芸術へと昇華させるものが多いことがわかります。何かのモチーフを、自らが信じる芸術へと昇華させた、まさに個人を芸術というキャンバスに落し入れた、人物だったのではないでしょうか。

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